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妻の「私は何の魚?」から、AQUARIUM 60ができるまで ChatGPTとの対話で、曖昧なアイデアを60タイプの仕様に変えた記録

水族館と占いが好きな妻の一言を起点に、ChatGPTとの対話でAQUARIUM 60の要件を決め、デモサイトにするまでの記録。AIのもっともらしい初案へ反例を返し、曖昧なアイデアを検証可能な仕様へ変える方法をまとめる。

目次
  1. はじめに
  2. この記録が役に立つ人
  3. 最初に「つくって」と頼まなかった理由
  4. 「ランダムな結果」が自分のことに見える理由
  5. 最初の12匹は、性格を説明しやすかった
  6. 生きものを選ぶ六つの条件
  7. 「架空の一匹」を入れるべきか
  8. 12種類だけでは、細かさが足りなかった
  9. UIは、分類と同時に考えた
  10. 要件は、賛成よりも反対から生まれた
  11. ChatGPTに任せたこと、人が決めたこと
  12. 却下案を消さず、Notionへ残した
  13. デモができても、要件定義は終わらなかった
  14. まだ確認できていないこと
  15. この進め方で失敗しやすいところ
  16. 1. 最初の回答が整っているため、採用したくなる
  17. 2. 分類を増やすだけで、違いが増えたと思う
  18. 3. AIに好みの決定まで任せる
  19. 4. 採用案だけを保存する
  20. 5. 「AIでつくったこと」を物語の中心にする
  21. 再利用できる八つの手順
  22. 1. 最初の一人を書く
  23. 2. 元の商品を三層に分けて調べる
  24. 3. AIに候補を広く出させる
  25. 4. 反対質問をする
  26. 5. 違和感を判定条件へ変える
  27. 6. 画面と流入経路を同時に決める
  28. 7. 却下案を含む決定記録を保存する
  29. 8. デモを公開し、実物から要件を拾い直す
  30. 使い回せる質問テンプレート
  31. 調査を混ぜない
  32. 候補を利用者側から壊す
  33. 長所だけで終わらせない
  34. 組み合わせを水増ししない
  35. 却下を知識にする
  36. 実装後に点検する
  37. 次は、行く水族館をすすめたい
  38. おわりに

はじめに

妻は水族館が好きです。占いも好きです。

ある日、彼女がふと、こんなことを言いました。

「動物占いはあるのに、水族館占いってないよね。私が魚だったら、何になるんだろう」

それが、AQUARIUM 60をつくり始めた理由でした。

最初は、まず妻に遊んでもらうための、小さな診断ページをつくるつもりでした。誕生日を入力すると、イルカやペンギン、ラッコのような水族館の生きものが一匹出てきます。それくらいのものを想像していました。

ところが、実際につくろうとすると、決めなければならないことが次々に出てきました。

どの生きものを選ぶべきでしょうか。

なぜ12種類なのでしょうか。

誕生日から結果をどう決めるのでしょうか。

性格の違いをどうつくるのでしょうか。

そして、結果を見た人が「これはハズレだ」と思う生きものを入れてもよいのでしょうか。

そこで、ChatGPTとの対話が始まりました。

ただし、ChatGPTに「水族館占いを考えて」と一度だけ頼み、返ってきた案をそのまま採用したわけではありません。むしろ、このプロジェクトの重要な要件は、ChatGPTのもっともらしい初案に「それは本当にうれしい結果なのか」と問い返す過程で決まっていきました。

この記事で書きたいのは、完成したサイトそのものよりも、その手前で要件がどう決まっていったかです。

AIに何を頼み、人がどこで異議を唱え、却下した案をどう残し、最後に実装へ移せる形まで具体化したのかを振り返ります。

これは、曖昧なアイデアが、対話を通して仕様に変わっていくまでの記録です。

ChatGPTから案は出てくるのに、どれを採用すべきか決めきれない人に向けて書きます。

完成したデモは、AQUARIUM 60で見ることができます。

なお、記事中の質問例は、実際の中国語での対話を再利用しやすい日本語に整理したものです。逐語録ではありません。実際に起きた判断と、あとから一般化したテンプレートを区別して書いています。

この記録が役に立つ人

この事例が向いているのは、次のような人です。

  • 身近な人の一言や、自分の小さな違和感からサービスをつくりたい人
  • ChatGPTから案は出るものの、どれを採用すべきか決めきれない人
  • 一度のプロンプトで得られる成果よりも、調査、選択、仕様化までの進め方を知りたい人
  • 却下した案を含め、あとから判断をやり直せる記録を残したい人

反対に、この記事はサイトの実装手順や、コピーして一度で完成するプロンプトを扱うものではありません。また、AQUARIUM 60が市場で成功したという報告でもありません。現時点で公開できているのはデモです。ここで扱うのは、曖昧な希望を検証可能な要件へ近づけた過程です。

最初に「つくって」と頼まなかった理由

最初にChatGPTへ頼んだのは、水族館版のキャラクターを考えることではありませんでした。先に、日本の「動物占い」がどのように設計されているのかを調べることにしました。

調査は、次の三つに分けました。

  1. 誕生日から結果を出す計算規則
  2. 12種類と60種類を成立させる分類設計
  3. 結果を読み、共有したくなるコンテンツ設計

ここを飛ばしていたら、「水族館の人気者を12匹並べ、性格を書き分ける」だけで終わっていたと思います。

調べてわかったのは、動物占いの中心が、性格に関する質問への回答ではなく、誕生日を六十干支の60日周期に対応させる固定分類だということでした。12の動物は入口であり、その下に60のキャラクターがあります。動物、色、キャラクター名を重ねることで、理解しやすさと「自分だけの型」という細かさを同時につくっていました。

一方、公開情報からは、誕生日による分類が心理測定として有効だと確認できる十分な資料は見つかりませんでした。そこで新しい企画では、「科学的に人格を診断する」とは言わず、誕生日を使って同じ結果に戻れるキャラクターコンテンツとして設計する、と先に境界を決めました。

この順番は重要でした。

AIにいきなり案を出させる前に、元の商品の強さと、引き継いではいけない主張を分けます。今回引き継ぐことにしたのは、安定した結果、覚えやすいキャラクター、60型の細かさ、友だちと比較できる構造でした。引き継がなかったのは、誕生日から客観的な人格がわかるという強い主張です。

調査時の質問は、次の形に整理できます。

このテーマを、①計算規則、②分類設計、③コンテンツ商品としての見せ方、の三層で調べてください。公式説明と第三者資料を分け、科学的に確認できない部分は、そのことがわかるように書いてください。

この質問の目的は、長い回答を得ることではありません。事実、ブランド側の説明、こちらの推論を混ぜないためです。

「ランダムな結果」が自分のことに見える理由

次に考えたのは、計算式よりも厄介な問題でした。

誕生日から機械的に割り当てられた結果を、なぜ人は「自分のことだ」と感じるのでしょうか。

動物占いは、毎回違うものが出る抽選ではありません。同じ誕生日なら同じ型へ戻ります。その安定性が、「これは自分に属する結果だ」という感覚をつくります。そこに動物のイメージ、短い肩書き、当てはまりやすい状況文、長所と弱点の組み合わせが加わります。

そして、最後の仕上げをするのは読み手自身です。

「普段は冷静ですが、本当に大切な場面では感情が動きます」と書かれていれば、読み手は自分の記憶から該当する出来事を探します。自分で持ち込んだ記憶が、結果の正しさとして感じられます。友だちから「それ、あなたっぽい」と言われれば、さらに確信が強くなります。

ここで、設計目標を一つ言い換えました。

目指すのは、人格を正確に当てることではありません。読んだ人が自分の行動を思い出し、誰かと話したくなることです。

この判断から、結果文には次の順序を持たせることにしました。

  • 外から観察できる行動
  • その行動の裏にある動機の解釈
  • 長所を使いすぎたときの代償
  • 相手が取りやすい具体的な接し方

たとえば「あなたは優しい」だけでは、誰にでも当てはまります。代わりに、「誰が置いていかれているかを先に見てから、自分の立つ場所を決めます。ただし、皆に頼られると、自分が疲れていることを言いにくくなります」と書きます。これなら、本人も友人も場面を思い出せます。

AIには形容詞を増やさせるより、行動の証拠を書かせるほうが有効です。

「優しい」「責任感がある」などの抽象語を使わず、友人が見ても確認できる行動を三つ書いてください。その能力を使いすぎたときの困りごとと、周囲ができる接し方も一つずつ書いてください。

最初の12匹は、性格を説明しやすかった

調査のあと、ようやく水族館版の候補を考えました。

初期案には、イルカ、ペンギン、ラッコ、クマノミ、サメ、マグロ、マンタ、ウミガメ、タコ、クラゲ、ダイオウグソクムシ、タツノオトシゴなどが入っていました。

性格の書き分けだけを考えるなら、悪い案ではありません。

タコは知性と多角的思考を表せます。マグロは、止まらず進む人として書きやすい生きものです。ダイオウグソクムシには、外から見えない粘り強さを与えられます。クラゲは、環境に合わせる柔軟さを表現できます。

ChatGPTは、それぞれに前向きな意味を与えることができました。

しかし、妻に遊んでもらう場面を想像すると、別の疑問が出てきました。

タコを引いた人は、本当に「私はタコタイプです」と友だちに送りたいでしょうか。

タコが嫌いという話ではありません。水族館で見る人気と、自分のアイコンとして引き受けたい気持ちは同じではありません。日本では、タコやマグロは食べ物の連想も強い生きものです。ダイオウグソクムシは一部のファンには魅力的でも、虫や不気味さを先に感じる人がいます。性格文を最後まで読めば好きになれるとしても、結果画面を開いた瞬間に閉じられたら意味がありません。

ここで「生きものの多様性」より先に、「結果としての望ましさ」を要件にしました。

動物占いにも、抽選結果として露骨に損をしたと感じる動物がほとんどいません。そこには、キャラクター商品としての明確な意図があります。

水族館版にも、ハズレを置かないことにしました。

この一言で、候補の評価基準が変わりました。

生きものを選ぶ六つの条件

  1. 名前と絵だけを見ても、引いたときにうれしいか
  2. 「私はこのタイプ」と人に送りたいか
  3. 食材、侮辱、気持ち悪さ、弱さを強く連想させないか
  4. 大人が使っても幼く見えすぎないか
  5. 一目で区別できる輪郭と、商品にできる視覚的特徴があるか
  6. ほかの生きものを下位互換にしない、独自の長所を持てるか

この条件で初期案を見直し、タコ、マグロ、ダイオウグソクムシなどは最終候補から外しました。サメは一般名のまま使わず、巨大ですが穏やかなジンベエザメに置き換えました。

最終的に残ったのは、次の12種類です。

  • シャチ
  • イルカ
  • シロイルカ
  • ジンベエザメ
  • マンタ
  • ウミガメ
  • ペンギン
  • ラッコ
  • アザラシ
  • クマノミ
  • クリオネ
  • リュウグウノツカイ

ここで学んだのは、AIの初案が「間違い」だったということではありません。

AIは、性格を割り当てやすい候補を広く出しました。人は、その候補が現実の利用場面で受け入れられるかを判断しました。発散と選択では、担当が違っていたのです。

候補を出したあとには、次のように聞くと判断しやすくなります。

性格を書き分けやすいかではなく、結果として表示された本人が「ハズレ」と感じないかで評価してください。説明文を読む前に、名前と絵だけを見て共有したくなるかを基準にし、危険な候補と理由を挙げてください。

「架空の一匹」を入れるべきか

動物占いには、実在しないペガサスがいます。

水族館版にも、一匹だけ神話上の海洋生物を入れれば、世界観に奥行きが出るのではないかと考えました。そこで候補になったのが、ギリシャ神話の海馬ヒッポカンポスでした。

見た目を自由に設計でき、神秘的で、ほかの生きものとは明確に違います。企画上の利点は多くありました。

しかし、考えるほど問題も見えてきました。

日本語の名前だけでは、姿や物語が伝わりにくい生きものです。説明を読まなければ、魅力が成立しません。また、一匹だけ完全な神話生物にすると、そこだけが「レア」「SSR」「当たり」のように見える危険があります。すべてのタイプを同じ価値にしたいという要件とも衝突します。

そこで出てきたのが、リュウグウノツカイでした。

実在します。けれど、名前は「竜宮の使い」であり、姿も伝説の生きものに見えます。銀白色の長い体と赤い背びれは、スマートフォンの縦長画面にも合います。何より、日本語の名前だけで物語が始まります。

最終的に、ヒッポカンポスをリュウグウノツカイへ置き換えました。

ただし、この選択には別のリスクがありました。リュウグウノツカイは、漂着や地震の前兆と結びつけて語られることがあります。そこで、キャラクター設計に禁止事項を加えました。

  • 地震、災い、予言、不吉を性格文に使わない
  • 漂着した写真や死んだ個体を参照しない
  • 健康に泳ぐ銀色の使者として描く
  • 特別な金枠や「伝説級」を与えない
  • ほかの11種類と同じ文章量、同じ演出時間にする

採用理由に加え、採用したことで増えたリスクまで書きます。これが、アイデアを仕様に変える作業でした。

12種類だけでは、細かさが足りなかった

生きものが決まっても、12種類だけでは「私はこれだ」と感じる細かさが足りません。同じイルカでも、すぐ動く人と、時間をかけて考える人がいます。

そこで、生きものと水流の二層構造にしました。

  • 生きもの:何を大切にし、どこに注意を向けるか
  • 水流:変化が起きたとき、どのように動き始めるか

12種類の生きものに5種類の水流を組み合わせると、60タイプになります。デモサイトでは、水流を「閃流・環流・潜流・遊流・恒流」と表現しています。

この構造には、二つの利点があります。

一つは、12種類すべてを同じ確率にできることです。各生きものに5種類の水流があり、合計60タイプになります。特定の生きものだけが珍しくなることはありません。

もう一つは、キャラクターと行動様式を分けられることです。たとえば同じウミガメでも、最初の一歩が速い閃流と、長く一定の速度を保つ恒流では、結果文の場面が変わります。

ただし、ここにも落とし穴があります。

「ウミガメの説明」と「恒流の説明」を単純に連結すると、60種類ではなく、12枚と5枚の文章を組み合わせただけになります。潜流とリュウグウノツカイ、環流とイルカのように、意味が重なりやすい組み合わせもあります。

そのため、60のマスを一つずつ編集する必要があります。

生きものの共通文と水流の共通文を連結しないでください。12×5の表をつくり、各マスについて、行動、誤解され方、余裕がないときの反応、相手への接し方がほかのマスと重ならないように書いてください。

AIは60案を埋める速度を上げられます。しかし、差が本当に見えるかを判定するのは人です。名前を隠して五つの結果を読ませ、どれも同じに見えるなら、分類ではなく言い換えにすぎません。

UIは、分類と同時に考えた

分類と同時に、誰が、どの端末で、どこから使うかも決めました。

検証前の仮説として、最初の想定利用者を、水族館、キャラクター、自己表現コンテンツが好きな日本の18〜34歳女性としました。男性を排除するという意味ではありません。発見し、友人やパートナーへ送る最初の人を具体的にしたかったからです。

入口はInstagram、TikTok、LINE、そして将来の水族館内QRです。したがって、最初につくるべきものはネイティブアプリではなく、LINEやInstagramの内蔵ブラウザでもすぐに開けるモバイルWebでした。

アカウント登録も、メールアドレスも、性別も、最初の診断には必要ありません。誕生日は端末内で結果へ変換し、サーバーへ保存しません。共有カードにも誕生日を載せません。

トップページの問いは、次の形になりました。

水槽の中で、あなたは何者?

説明は短くしました。

誕生日から見つかる、全60タイプの水族館いきもの診断。

この段階で考えたのは、情報量よりも一連の行動です。

  1. 誕生日を入力する
  2. 1〜2秒の短い演出で生きものが現れる
  3. 名前、絵、一行の説明で「自分の型」をつかむ
  4. 結果を読み進める
  5. 友だちを同じ水槽に招待する
  6. 二人の共通点と、すれ違いやすい点を見る

結果画面は長文でも構いません。ただし、最初の一画面には、生きもの、水流、肩書き、一行のフック、三つのタグ、共有ボタンが必要です。読了後でなければ共有できない設計では、会話が生まれにくくなります。

相性も、根拠のない「98%」ではなく、共鳴、補完、摩擦からの学びという言葉で表すことにしました。数字の精密さを演出するより、二人が次に何を話せばよいかを示します。

ここでも、質問は画面の部品ではなく、利用場面から始めました。

InstagramのストーリーまたはLINEで送られたリンクを、スマートフォンで初めて開く人を想定してください。登録なしで結果へ到達し、結果を友だちへ送り、その友だちも診断を完了するまでの画面と文言を設計してください。

要件は、賛成よりも反対から生まれた

振り返ると、重要な要件はChatGPTが最初から提示したものではありませんでした。

  • タコは、結果としてうれしいのか
  • 人気の生きものと、なりたい生きものは同じなのか
  • 一匹だけ神話生物にすると、当たりに見えないか
  • リュウグウノツカイは、不吉な連想を持ち込まないか
  • 60種類は、本当に違うのか
  • 「科学的」と言える根拠はあるのか
  • 共有カードに誕生日が出ないか

こうした反対意見が、選択条件、禁止事項、テスト方法へ変わっていきました。

AIとの要件定義で役に立ったのは、賛成してもらうことではありません。自分の違和感を、誰が確認しても同じ判断ができる条件へ翻訳させることでした。

「タコは嫌だ」で終われば、個人の好みです。

たとえば仮の基準として、「名前と絵だけを見せたとき、『ハズレ』と答えた人が10%を超える候補は外す」と決めれば、検証できる要件になります。

「リュウグウノツカイは怖くしない」だけでは、描く人によって変わります。

「漂着、地震、警報、死を連想させる構図と語彙を禁止し、健康な活魚をS字の姿勢で描く」とすれば、アートディレクションになります。

違和感を持つのは人です。AIには、その違和感を比較表、受け入れ条件、禁則、テスト項目へ変えさせます。

ChatGPTに任せたこと、人が決めたこと

このプロジェクトでの分担は、次のようになりました。

ChatGPTに任せたこと 人が決めたこと
元となる仕組みの調査と整理 どの主張を商品に持ち込まないか
候補を広く出す 妻や利用者がうれしいか
役割、長所、弱点の文章案 その動物になりたいか
分類軸の比較 ブランドの品位と世界観
UI、文言、導線の複数案 どの体験を最初に見せるか
リスクを一覧化する どのリスクを受け入れるか
会話を仕様書へ再構成する 最終的な採用と却下

AIが得意なのは、広げること、分けること、漏れを見つけること、何度でも書き直すことです。

人が手放せないのは、誰のためにつくるのかを覚えておくこと、恥ずかしくないかを感じること、文化的な連想を読むこと、そして選んだ結果に責任を持つことです。

妻が「自分は何の魚なのか知りたい」と言いました。その一人の顔が見えていたからこそ、「理論上は差別化できるタコ」よりも、「結果を受け取ってうれしい生きもの」を優先できました。

却下案を消さず、Notionへ残した

対話が長くなると、最後の結論だけを覚えるのが難しくなります。

どの案を採用したかは残っても、なぜ別の案を外したのかは消えやすいものです。数週間後、別の人が「タコも面白いのでは」と提案したとき、議論を最初からやり直すことになります。

そこで、会話の内容を一つの長い知識記事としてNotionへ保存しました。

保存時に求めたのは、短い要約ではありません。

  • 調査で確認できた事実
  • こちらが行った推論
  • まだ実験していない仮説
  • 採用した案
  • 却下した案と理由
  • UIと文言
  • ターゲットと流入経路
  • 科学、商標、個人情報の境界
  • 次に検証すべき項目

これらを分けたまま、一つの記事へ整理しました。

保存の目的は、会話をそのまま残すことではありません。挨拶や重複は消しますが、判断に使った情報は落としません。読み物ではなく、あとから設計を変更できる決定記録にします。

知識化を依頼するときは、次の条件が役に立ちました。

最終案だけでなく、却下案、却下理由、残ったリスク、未検証の仮説を残してください。事実、推論、設計判断を混ぜず、あとから別の担当者が意思決定を再現できる形にしてください。

AQUARIUM 60の調査・設計記事には、動物占いの仕組みから、60型、UI、文案、ターゲット、獲得経路、リュウグウノツカイの採用理由までをまとめています。

デモができても、要件定義は終わらなかった

知識記事をもとに、デモサイトを形にしました。

実際の画面になると、文章上では見えなかった問題が現れました。

トップページは、AQUARIUM 60という名前、12種類、5つの水流、誕生日を端末内だけで扱うことを、かなり素直に表現できていました。リュウグウノツカイも、不吉な深海魚としてではなく、銀色の生きものとして描けました。

一方、公開ページを点検すると、別の課題が見つかりました。

  • 正式URLではなく、サンプルドメインがcanonicalに残っていた
  • 大きなSNSカードを指定しているのに、トップページにOG画像がなかった
  • 診断前に60タイプを見られる導線が、診断開始率を下げる可能性があった
  • 同じSVG部品を複数箇所で使い、一部のIDが重複していた
  • ブランドサイトと、広告・招待用の診断ページを分けたほうがよかった

これらは、キャラクター設定を考えているだけでは出てきません。

「誰がどこから来て、何を押し、どの画像と文章が友だちの画面に出るか」まで確認して、初めて要件になります。とくにSNS共有を成長の中心に置くなら、OG画像は飾りではありません。結果ページそのものと同じくらい重要な機能です。

デモができたことで、要件を現実にぶつける最初の試験が始まりました。

まだ確認できていないこと

デモが形になったことと、商品として成立したことは同じではありません。

現時点では、次の点を実際の利用者で確認できていません。

  • 最終12種類のどれにも、本当にハズレ感がないか
  • 12×5の結果文を、利用者が互いに違う60タイプとして読めるか
  • 最初の想定利用者を18〜34歳女性とした判断が妥当か
  • 結果を見た人が、実際に友だちへ共有するか
  • 招待された友だちが診断を最後まで完了するか
  • リュウグウノツカイに、不吉さや怖さを感じる人がどの程度いるか

したがって、この記事で示せるのは「正しい市場を見つけた方法」ではありません。「何を試せば間違いに気づけるかがわかる仕様まで進めた方法」です。

次に必要なのは、ターゲット候補へ名前と同品質のイラストを見せ、ハズレ感と共有意向を測ること、60タイプの文章を名前なしで読み比べてもらうこと、そして実際の共有率と招待完了率を見ることです。

この未検証部分を残したまま公開することは、弱みではありません。設計上の判断と、実際に証明された結果を混同しないための境界です。

この進め方で失敗しやすいところ

1. 最初の回答が整っているため、採用したくなる

ChatGPTは、見出し、表、理由をつけて答えます。文章が整っていると、判断まで正しいように感じます。

今回も、タコやダイオウグソクムシには筋の通った性格を与えられました。しかし、説明可能であることと、商品として選ばれることは別でした。

候補がきれいに並んだときほど、「誰が嫌がるか」「共有画面でどう見えるか」を聞く必要があります。

2. 分類を増やすだけで、違いが増えたと思う

12×5と書けば、数字の上では60タイプになります。しかし、文章が共通部品の連結なら、利用者は差を感じません。

比較すべきなのは型の数よりも、同じ場面でどう違う行動を取るかです。

3. AIに好みの決定まで任せる

AIは理由をつけて、ほぼすべての案を魅力的に説明できます。だからこそ、「魅力的に説明できた案」を採用条件にしてはいけません。

誰に見せたいか、その人がどんな顔をするかは、人が持ち続ける必要があります。

4. 採用案だけを保存する

却下理由がない仕様書は、未来の自分にとって使いにくいものです。同じ議論が再発し、別の案に変えたときの影響も追えません。

AIとの会話は長くなります。結論と同じくらい、反例と禁止事項を保存する価値があります。

5. 「AIでつくったこと」を物語の中心にする

このサイトの始まりは、AIではありません。

妻が水族館と占いを好きで、自分が何の魚なのか知りたかったことから始まりました。その願いが先にあり、AIは調べ、広げ、比較し、記録するために使いました。

AIを主役にすると、どのAI制作記事とも似てしまいます。誰のためにつくったかを主役にすると、判断の理由が残ります。

再利用できる八つの手順

同じ進め方を、キャラクター診断以外にも使える形にすると、次のようになります。

1. 最初の一人を書く

「幅広いユーザー」を置く前に、最初に使ってほしい一人と、その人が口にした言葉を書きます。

今回は、水族館と占いが好きな妻と、「私は何の魚だろう」という一言でした。

2. 元の商品を三層に分けて調べる

  • 仕組み
  • 情報設計
  • 売れ方・広がり方

何を真似し、何を持ち込まないかを決めます。

3. AIに候補を広く出させる

この段階では、すぐに絞りません。性格、見た目、文化的連想、実装コストなど、異なる理由を持つ候補を並べます。

4. 反対質問をする

  • 誰が嫌がるか
  • ハズレはどれか
  • 説明を読まなければ成立しない案はどれか
  • 一つだけ上位に見える案はないか
  • 日本語では別の連想を持たないか

最初の回答を改善する前に、壊す質問をします。

5. 違和感を判定条件へ変える

「なんとなく嫌」を、対象者、評価方法、通過基準、禁止事項へ変換します。

6. 画面と流入経路を同時に決める

誰が、どのリンクから、どの端末で入り、何を共有するかを書きます。機能一覧より先に、診断した人から友だちへ届き、その友だちも結果を見るまでの流れをつくります。

7. 却下案を含む決定記録を保存する

事実、推論、決定、未検証を分けます。採用案と一緒に、「なぜ戻らないのか」を残します。

8. デモを公開し、実物から要件を拾い直す

文章で正しかったことが、画面でも正しいとは限りません。共有カード、URL、読み込み、モバイル表示、導線の分岐を実物で確認します。

使い回せる質問テンプレート

最後に、今回のやり取りから残った質問をまとめます。

調査を混ぜない

公式が主張していること、第三者資料で確認できること、あなたの推論、未検証の仮説を分けてください。

候補を利用者側から壊す

各候補を「説明しやすさ」ではなく、「本人が結果として受け取り、友人へ共有したいか」で評価してください。ハズレになり得る候補と、その文化的・視覚的理由を挙げてください。

長所だけで終わらせない

各タイプについて、観察できる行動、自然にできること、その長所を使いすぎたときの代償、誤解されやすい点、周囲ができる接し方を書いてください。

組み合わせを水増ししない

二つの共通テンプレートを連結せず、組み合わせごとの矛盾と特徴を処理してください。名前を隠して読んでも、近いタイプと区別できる文章にしてください。

却下を知識にする

最終結論だけでなく、却下案、却下理由、残るリスク、再検討する条件を記録してください。

実装後に点検する

企画意図ではなく、実際の公開ページを、診断開始率、モバイル操作、共有プレビュー、アクセシビリティ、個人情報、検索設定の順で点検してください。

これらは万能プロンプトではありません。何を大切にするかをAIに決めてもらうための言葉でもありません。

人が出した違和感を、比較可能で、検証可能で、次の担当者にも伝わる形へ変えるための質問です。

次は、行く水族館をすすめたい

妻には、もう一つやってみたいことがあります。

診断結果に合わせて、「次に行くなら、この水族館」とおすすめしてほしいのだそうです。

深海の静けさが好きな人、大水槽の開放感が好きな人、ペンギンをずっと眺めていたい人。同じ水族館好きでも、心が動く場所は少しずつ違います。

ここは、占いの延長として無理に決めるよりも、展示内容、館内の過ごし方、混雑、旅の目的など、実際の好みを少し聞いたほうがよいでしょう。AQUARIUM 60のタイプは会話の入口にし、推薦そのものは現実の情報に基づかせます。

結果が画面の中で終わらず、次の休日に訪れる水族館へつながったら面白いと思います。

その機能は、まだつくっていません。

これは、AQUARIUM 60の次の話になります。

おわりに

ChatGPTとの要件定義で価値があったのは、正解を一度で出してもらうことではありませんでした。

調べ、候補を広げ、違和感をぶつけます。却下理由を条件へ変え、画面にし、実物を見てまた問い直します。

この往復によって、「水族館占いがあれば楽しい」という一言が、12種類、5つの水流、60タイプ、結果文、共有導線、個人情報の扱い、禁止表現を持つ仕様になりました。

AIは、可能性をいくらでも出せます。

しかし、誰のためにつくるのか、どの結果なら笑って受け取ってもらえるのか、どこで「これは違う」と止めるのか。その判断は、人の側に残ります。

AQUARIUM 60は、妻の「私は何の魚?」から始まりました。

そして、その一人の問いを忘れなかったことが、最後まで最も重要な要件でした。